やぶきたと紅茶用品種の話

店主のつぶやき

髙野茶園は夫が20年近く前から一人でやっていた小さな茶園だ。
東日本大震災の際に出荷停止となり、そこから弱小新規就農者の夫はどん底に落ちた。
息も絶え絶えな状況を少し乗り越えた10年ほど前から、蒸し製煎茶などより機材が少ないという(安易な)理由で和紅茶の製造を始めた。
そして、札幌に和紅茶(湘南紅茶すずか)を売りに来て、札幌で紅茶カフェをやっていた私と出会い、今に至る。

という前置きを一旦入れておいて…ここから本題。
神奈川県は兼業茶農家が多く、茶園の規模なども他産地に比べると小さいと思われる。
夫は一時期は1町歩ほどの耕作放棄茶園を神奈川県西部のあちこちに借りていたそうだが、私と出会った頃はかなり縮小していた。
そしてどの茶畑も品種は「やぶきた」。

そりゃそうで、現在も「やぶきた」という品種は緑茶にとっての王者。
20年前くらいまではまだまだ絶対的エース。
かなり改植が進んでいるものの、現在でも日本中の栽培面積のおよそ6割程度はいまだに「やぶきた」だそうだ。
私自身もやぶきたで作られた緑茶は非常に好きである。

やぶきたは緑茶としては王者だが、紅茶や烏龍茶としての適性は弱い。
作れなくはないし、美味しくお作りになっている生産者の方も多数いらっしゃる。
そんな先輩たちのやぶきた紅茶を参考にさせていただきながら、我々も創意工夫を重ねに重ねた。

夫が先行して(私と出会う前から)作っていた「湘南紅茶すずか」は低温長時間発酵という手法を開発者の方にご指導いただき、今も髙野茶園の鉄板商品となっている。
一方、「湘南紅茶はなゆらか」は私が以前から妄想していた製法で作らせてもらった。
1年目は「にるちゃ」と言ってテストロットとして少量販売し、2年目はこれぞビギナーズラックで「尾張旭国産紅茶グランプリ チャレンジ部門」に入賞させていただくことができた。
おかげさまでうっかり調子に乗った。

実はそこから毎年再現性の問題で躓くことになる。
同じ作り方でやってみても、どうも入賞した際の味わいが再現できない。
同じような芽の具合で、同じ製法で、さらに一手二手加えてみたにも関わらず…だ。
微調整を繰り返しながら毎年あーでもないこーでもないやりながら作っている。
(ちなみに今年の湘南紅茶はなゆらかはもしかしたら全く別物になっている可能性大)

やぶきたという品種は緑茶向きなので、まず酸化発酵しづらい。
昔から伝統的に?作られてきたやぶきた紅茶は強制的に強い酸化発酵をして、火入れを強くして甘香ばしくしているものが多かった。
酸化発酵を軽くしても、他の品種のような豊かな香りは出にくいし、えぐみも残りやすい。(うちの場合)

萎凋の長短
酸化発酵のタイミング
揉捻時間
などなど細かい調整はかなりやってみたが、なかなか気難しくて理想には程遠い。

大磯町に植えた紅茶用(烏龍茶用)品種たちがそだってきたので、昨年くらいからテストロットを作るようになった。
出来上がりが数グラム、なんていうロットも結構ある。
しかしわずかでも揉んでみるとわかることがある。

そして改めて「品種」の力を見せつけられる。
目指すところを目指しやすいのだ。
紅茶用品種は紅茶を作ろうと思うとちゃんと”紅茶らしい紅茶”になってくれる。

当たり前のことだ。
美味しい紅茶を作るために育成された品種たちだもの。
明治時代から始まる和紅茶の歴史をお茶講座でお話したりもしているので、そのあたりも含めて理解しているつもりだ。

だが。
同時に小さな心のダメージも受ける。

身長が低い子にバスケットをやらせるような
インディカ米で寿司を握るような

できなくはない。
でも紅茶用品種にはいくら背伸びしても届かないもどかしさを感じ続けてきた。

「やぶきた」で、「やぶきた」だからできる紅茶を夫と結婚してから7年間模索し続けてきた。
紅茶用品種にも負けない紅茶が作りたいと願い続けてきた。
そこには耕作放棄茶園の「やぶきた」に特別な価値をつけたいという野望もあった。
(2ndはいい感じになるが、こちらはウンカ様のご機嫌次第…)

それでも、やっぱり勝てはしない。
いや、そんなことはわかり切ってる。
「みんな違ってみんないい」とも思う。
すべてにおいて勝負と思うから苦しいのかもしれない。

でも、やっぱりもっと美味しい、自分の理想の紅茶を作ってみたい。
万人を唸らせる紅茶を作ってみたい。
紅茶用品種なら、それは出来るかもしれない。
憧れの海外の紅茶のように、香りも味わいも奥深くてうっとりするようなそんな紅茶を。

なーんて。
思っちゃったりするんだよなぁ。

これらを言語化してよかったのか、と書いては消してを繰り返してきた。
念のために言っておくが、決してやぶきた紅茶を否定している訳ではない。
毎年自分たちの実力の最大限で「湘南紅茶すずか」と「湘南紅茶はなゆらか」を作っているし、他の方の作品でも美味しいものはいくつも知っている。
やぶきたを我々ができる限りとことんまで追求してきて、学んだことはたくさんある。
他品種で応用できるかはわからないけれど、これは我々の宝だと思う。

その一歩先へ。
大磯町の茶畑が軌道に乗ったら、その一歩先を目指してみようと思っている。


茶業界は大きなうねりの中にいる。
我々もうねりは小さいが変化の時を迎えようとしている。

…のかも知れない。






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