蜜香ってなんぞや?

蜜香

もうかれこれ10年ほど前になるのか。
東方美人に代表される「蜜香」なるものに非常に興味を持った。
なぜか、と言われるとよくわからない。
その頃SNSなどでもよくその言葉を見かけたからだと思う。

当時(一応)紅茶専門店店主であったが、様々なお茶を飲む機会が増え、日本茶や中国茶台湾茶界隈にも少しずつ興味が増えていっていた時期だった。
店を持ちながら学ぶのはなかなか大変で、当時通えるような教室も見つからなかった。(あったのかも知れないがどのみち通えなかったと思う)
そして、札幌には茶畑はなく、当然製茶などする機会もない。

≪補足≫
紅茶に興味を持ったばかりの頃(もはや20年以上前)、中国茶界隈の方に誘われて中国茶の教室に通っていたことがある。
それこそ6大分類などを必死で覚えて、さっぱり意味はわからぬままだったことを先にお伝えしておく。

で。
台湾茶のバイヤーの方の製茶体験ツアーに参加してみた。
自分で作ってみたら何かわかるのではないか、という安易な考えだった。
蜜香紅茶を開発した生産者の方のところで、実際に芽を摘み、萎凋、揉捻、発酵、乾燥とすべての工程を体験させていただいた。
なにせこうして製茶などしたことがなかったので、とても良い経験をさせていただいたと今も思う。

戻ってきてからも、「蜜香とは?」という問いは消えない。
結局わからないからだ。

色々な方に「蜜香とは何か、蜜香はどこから生まれるのか」と聞いて回った。

マスカットフレーバーと言う人もあり、他の人は「ダージリンセカンドのマスカテルのことだ」と言い、ある人は「いや、それは違う」と言う。
「東方美人にある蜂蜜のような香り」とか本には書いてあるけど、「蜂蜜??」と首を傾げたりもしていた。
ウンカなんて関係ないと言われたこともある。
「マスカテル」の定義も「蜜香」の定義も人によって違う。
「蜜香は火で引き出すものだ」とも仰る方もいた。

誰が正解を知っているのか。
誰に聞けばわかるのか、が分からない。
そんなもやもやしていた中、札幌で中国茶台湾茶を扱っている知人が「蜜香茶会」を開いてくれた。
「蜜香」のあるお茶をたくさん飲ませてくれた。

そして東京に暮らしていたその方の師匠である方のところへも伺った。
その時もたくさんの「蜜香」のあるお茶を飲ませていただいた。

だが、正直「こんな雰囲気のものが蜜香なのかしら?」程度で終わり、明確な答えは自分の中で出せなかった。

数年経って、紅茶を作っていた夫(髙野茶園)と出会い、現在ともにお茶を作っている。
湘南紅茶すずかも湘南紅茶はなゆらかも一番茶を使用しているが、二番茶での紅茶も毎年試作をしていた。
作業の合間にほんの少量ずつ。
最初の数年は驚くほど不味いものしか作れなかったが、毎年いくつかのロットを作っているうちになんとなく「あれ?これ美味しいんじゃない?」というものが時々出てくるようになった。

そこから、どのような条件下でどの茶葉が一番美味しくなるのか、作り分け、テストしていった。

私は感覚の人間だが、夫は理論の人間。
製茶をするのは私で、私の製茶の報告を聞いて分析し、次はこうやったら良いのでは?とアドバイスをくれる。

最初はメントール強めが良いと二人とも感じていた。
わずかな青みの中にある、シュッとキレのある感じ←このあたりが感覚人間たる所以

でも、次第に私の感覚は変化していった。
それよりも、「柔らかく喉奥に残る甘さ」を引き出したいと思うようになった。
思えば、「蜜香茶会」を開いてもらった際の「蜜香」はこれだったと記憶している。

紅茶の場合は心地よい渋みが良いとされているが、いつからか私にとってそれらはネガティブに感じられることが増えた。
(ミルクティなどにする場合はもちろん渋みは必要だし、時と場合によりけり)

良質なお茶を飲んだ時の、いつまでも喉奥にふわふわと残る余韻。
それだけで他に何も必要なく、ただそのお茶とだけ向き合っていたいような感覚。

私にとっての「蜜香」はこれなのだと思っている。
条件としてウンカ(チャノミドリヒメヨコバイ)芽であることは必須だと考えているが、その素材をどう調理するかによって当然たどり着く先は違う。

それは蜜香だけではない、どの茶種を作ろうと思っても同じこと。
逆に、たとえ良い素材を使っていても製法を間違えればとんでもないものが出来上がったりする。
そこがたまらなく製茶の楽しい面であり、難しさでもある。

「蜜香とは?」に対する私なりの答えは出ているが、それは他の生産者や有識者の方とは異なるかも知れない。
第一ウンカ芽がどのように「蜜香」に関与しているのかの子細が化学で解明されたわけではない。確か。

ただ、自分が作った蜜香紅茶(やぶきた2nd)は私なりの「蜜香」の答えだと思っている。
まだ完全形とはいいがたい。
なにせ「やぶきた」という品種でしかやったことがないから。
他の品種のウンカ芽でどこまで自分の理想の「蜜香」が作れるのか、やってみないとわからない。
大磯の茶畑ではウンカがつかないってこともあり得る…

10年間考え続けていてよかった。
ようやく自分なりの答えが出せたから。

いつかは東方美人を作りたい。
東方美人は本当に製茶の中の最高峰だと思う。

もはや趣味の域ではあるが、烏龍茶も少量ずつ作り続けている。
今は失敗ばかりで、不味いものをいくつも生み出して正直萎える。
でもあと10年経ったら、こっちも自分なりの答えが出せるかもしれない。

やっぱりお茶作りはたまらなく楽しい。

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先日(11月20日前後?)にTEA MARKET Gclefの川崎さんがXのスペースでマスカテルのお話をなさっていた。
実はこの記事は以前からずっと下書きに入れたままでアップできずにいたもの。
川崎さんのお話を伺って、私なりの現時点の思いをアップさせていただくことにした。

マスカテル、蜜香の定義は今後も変化していくのだろう。
それもまた一興。

やはり、お茶はおもしろい。

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