とある本の話

和紅茶界を騒がせている例の本の話。

しばらくずっともやもやしてきた。ここ数か月。
その本が出版される少し前、「こんな本が出るらしいよ」と友人が教えてくれた。
そして「あなた、掲載されているよ」とも。

寝耳に水の話だったので、本ってこうやって何も知らされず掲載されることがあるんだなーと呑気に思っていた。
むしろ、うちのような弱小の茶園の名前を出していただけて光栄です、とすら思っていた。
我々髙野茶園に関しては名前も内容も誤りはない。
唯一ちょっと気になったのはある品種を育てている話のくだり。
この話は一時期流行った音声SNSの中で話したことしか記憶がない。
一部の方にお話ししたことはあったにせよ、あまり公にしたことはなかった気がする。多分。

筆者の方の名前も存じ上げなかったが、茶友が教えてくれて「あ!」となった。
あの例のSNSイベントのね。はいはい!という感じ。
そのSNSイベントには30日分の和紅茶のテーマが作られており、1日ずつそのテーマに沿った和紅茶を飲んでSNSにアップしていくという面白い試み。
自分自身はなかなか参加できなかったが、他の方が色々な和紅茶をアップされていてとても楽しく、勉強になった。

本が出版される前、された後、SNSでたくさんの告知(&感想)を見かけたが、私はどうしたら良いものかと思っていた。
髙野茶園は確かに出ているが、本を購入しなければ掲載されていることすら知らない訳だ。
知らないものをお勧めする必要はない…よなぁと。

そしてそこから、ネガティブな話をあちこちで聞くことになった。
SNS上では賞賛の声があふれているというのに。

どこか私の中でも腑に落ちず、あれこれ耳にする悪評が気になっていた。
実際身近な人たちも動いてくれていて、本人にも伝えてくださったりもしていた。

しかし何の音沙汰もなく…。
ついにお茶好きな方(仮にAさん)があちこちの生産者や記載されている方々に確認を取った上でSNS上の公開質問を行う形になった。

複雑な気持ちだった。
やっぱりどうしてよいのかわからない。
無断掲載、記載ミス、明らかにおかしな内容、(掲載された方が)公に伝えたくなかったこと…数え上げればきりがないレベル。

正直腹も立った。
無断掲載については掲載前に一言、SNSのDMでも使って連絡をすればいい話ではなかったのだろうか。
ミスに関しても、一言謝罪すれば間違えられた側の気持ちもおさまるであろうに。
掲載してもらえるなんて嬉しいことだから、皆さん快く対応してくださるはずだもの。(少なくとも私はそうです)

なぜそれらを怠るのか。

私にとって本というのはとても大切なもので、できるだけ正しくあってほしいものだと考えている。
形に残って、ずっと残り続けるものだからこそ、できるだけ誤りがないように細心の注意を払っていると、ある出版社にお勤めだった方が言っていた。
今回の件が筆者の問題なのか、出版社の問題なのか、私のような素人にはわからないが。
あくまでも外部から見ているだけの一意見だ。

私自身のもやもやの中で一番大きなウェイトを占めていたのは、
「和紅茶が盛り上がってきているところで水を差すことにはならないか」
という点。


過去にSNS上の不快なやり取りを見て、たくさんの茶友たちが一人、また一人と離れていった。
当事者でない人間からすれば、ただでさえ仕事のストレスや社会不安などでネガティブな感情にとらわれがちなのに、楽しいはずの趣味の場でのいがみ合いなどは見たいはずはない。
「正義」の押し付け合いも不快な場合はある。
(それによって守られていることもあるのは百も承知)

だからこそ、和紅茶というとてもとても狭い業界で争いを見せるのは危険だという危機感を持っている。
和紅茶人気が出てきた今、同じく和紅茶を愛する人間がその炎に水をかけることにはならないのか。

一方で明らかにおかしな部分に対しての修正や謝罪などはすべきだと思う。
今すぐにできないのであれば、「二版での修正をかけるなどの対応を今後していく」という公式発表をしてほしい。
私自身も他の生産者からの声は聞いている。
和紅茶を愛しているならば、生産者を思っているならば、それは最低限の誠意ではないのだろうか。

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今までSNS上では黙秘をしてきた。
そしてここに書くことはあくまでも私のひとりごとだ。

私は「元紅茶カフェ店主」であり、「お茶の販売を行う人間」であり、「お茶の楽しさを伝える人間」であり、「(マクロ)生産者」でもある。
紅茶カフェ時代に当時まだ札幌では珍しかった和紅茶を扱わせていただいていた。
そこから和紅茶に興味を持ち、少しずつ学び、人に伝えることも細々としてきた。
玉石混合と言われていた時代から、最近の目覚ましい進化も見守りつつ、今は自分自身でも和紅茶を作っている。
生産者になってしまったというのはレアケースかもしれないが、私は私なりに和紅茶界への深い深い愛を持っている。

明治時代から繋いできたバトンを受け取って、次に繋いでいくのは今の我々だ。
先人たちの血と汗と涙を受け、これからの和紅茶の世界を明るく築いていきたい。
私にできることなんてほんの限られたことだけれど、少しでも間口を広げたい。

「和紅茶なんて…」と言われないように、もっと広く多くの方に「日本の紅茶は素晴らしい」と思っていただくために、私は私の正義を貫きたいと思う。

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